Monday ひとりぼっちのぼくは

 自宅から駅へと向かう途上に、ちょっと気になる一軒の家がある。
 区画の角に、三角形の頂点を削ぎ落としたかのように玄関が誂えられている、トタン造りの古ぼけた家だ。
 玄関口には、一頭のゴールデンが繋がれている。
 冬場や夏の暑い盛りは引き戸の内に篭っているが、春になると長いリードをよいことに玄関の外に出て、路上で日向ぼっこをしている。
 昨年の今頃は同じようなゴールデンが二頭繋がれていて、仲良く日にあたっていた。それが今年は一頭に減った。何故か。


 連休明けの月曜の朝。早足で駅へと急ぐ道すがら、かの家の前に差し掛かった。
 アスファルトにべったりと腹をつけ、気持ち良さそうに目を閉じるゴールデン。
 その傍らにしゃがみ込んで、ゴールデンを愛でる二人の女性。
 ともに茶髪のウルフカットで、お揃いの紺のTシャツとジーンズを身につけている。仕事上のユニフォームか、あるいは連休最終日をオールで楽しんだペアルックのレズのカップルか。
 一人は然程でもない。黒い下着がたっぷりと覗いていた。
 そして、もう一人は…。


 見えていた。
 肛門スレスレまで見えていた。
 “半ケツ”とはよく言ったものだが、綺麗に上半分だけ拝める機会はそうそうない。
 無論、肛門の位置には個人差がある。20代の頃に一度だけ交わったことのある女性は、シックスナインの体位をとると肛門がちょうど私の口のあたりにきた。ヴァギナはもっと前。陰毛の彼方。故に肛門しか舐められなかった。


 閑話休題。私が二人と一頭の真横を通り過ぎる瞬間、件の彼女は何かに耐えかねたようにバランスを崩して勢いよく尻餅をついた。単に足が痺れたのか、あるいは私の視線が重荷となったのか。
 奴等は常に意識している。見えていることを。あえて振り返らずとも、背後に近づく気配には敏感だ。
 私は雲ひとつなく晴れ渡る青空を見上げ、明日もまた彼女に逢えることを心から願った。



※このテキストを紺野あさ美に捧ぐ。理由はまだない。