赤い眩暈
『スーパーニコニコ』絵流田店に勤務する万引きGメン・保田は、ほとほと疲れ果てていた。
「私、この仕事にあんまり向いてないかも知れない…」
誰にともなく口にする。これは最早、保田の口癖だ。
(そうだ…今日はお天気だし、外の空気を吸えば少しは気分が晴れるかも…)
思い立った保田は、レジの脇を抜けて店外に出た。
陽射しが眩しい。
思い切り深呼吸し、伸びをする保田。
(うーん…気持ちいいなあ。もう一頑張りしてみるか…)
そう思った瞬間、足元のアスファルトがフワリと浮き上がった。
視界が揺らぎ、平衡感覚が崩れた。
風にそよぐ柳の枝のようにしなる電柱と、湧き上がる人々のどよめきだけが辛うじて認識できた。
関東地獄地震。
その日突然、関東一円にマグニチュード8.9の激震が襲った。
ぐらりと崩れ落ちる保田。
その刹那、彼女の脳裏に25年間の幸せな日々が走馬灯のように浮かんでは消えた。
交通量調査のバイトに勤しむ矢口。
エレベーターガールとして働く大谷と里田。
看護師として病人の世話をする柴田と後藤。
スーパーのレジ係、松浦。
そして行きつけの喫茶店の店員、斉藤。
みんな素敵な友達だった。
ありがとう。
私、幸せでした。
『娘DOKYU!』New Season、『絵流田4丁目の人々』。
これは保田が倒れて頭を打ち、脳挫傷に起因する呼吸障害によって死亡するまでのほんの僅かな時間に、彼女の脳裏を過ぎった妄想、あるいは幸福の記録である。
( `.∀´)y-~~